ノーベル賞の金メダル
大隅良典さんがノーベル生理学・医学賞を受賞しましたね!
とてもおめでたいことです。
いまから40年、50年が過ぎたとき、これを読んでいる皆さんの中の誰かが
ノーベル賞を受ける名誉をつかんでくれたら……と、淡い夢のようなものを抱かずにはいられません。
さて、ノーベル賞について、こんなエピソードをご存知でしょうか。
時は1940年、所は北欧デンマーク。
ここにヘヴェシーという化学者がおりました。
彼自身も後にノーベル賞を受賞するのですが……これは、それより数年前のお話です。
ヘヴェシーの友だちに、ラウエ、フランクという2人の科学者がいました。
彼らは2人とも、ノーベル賞を受賞した世界最高峰の学者たちだったのですが、
ナチスに公然と歯向かったため、迫害され、海外へ亡命してしまいました。
そのときラウエたちは、ノーベル賞の金メダルを、ヘヴェシーに預けて行きました。
没収されることを恐れたのです。
しばらくして、ヘヴェシーの住むデンマークにも、ドイツが侵攻してきました。
ヘヴェシーもまた亡命を余儀なくされましたが、困ったのは、友人たちから預かった金メダルです。
当時、金を国外に持ち出すことは禁止されていました。
といって、自宅に残していたのでは、亡命している間に没収されてしまうでしょう。
そこで彼は一計を案じました。
研究室にあった強力な薬品……「王水」に、金メダルを溶かし、その溶液を研究室に残したまま亡命したのです。
王水は極めて強力な酸化剤で、酸では溶かせない金や白金などさえ溶かすことができます。
そしてその溶液は、ぱっと見にはただの水と見分けがつきません。
化学の知識を持たない普通の人なら、その中に金が溶け込んでいるなんて想像もしないでしょう。
彼のもくろみは見事にあたりました。
戦後、ヘヴェシーが研究室に戻ってくると、かつて金メダルを溶かした溶液が、そのまま残っていたのです。
そのことをノーベル財団に相談したところ、財団は、溶液の中から金を取り出して、再び金メダルを作り直してくれたということです。
高校で化学を勉強している方なら、「王水に金が溶ける」という事実は、知っているかもしれません。
そしてその事実は、それ単独では何の役にも立ちません。
しかしこの時、その「役に立たない知識」が、ヘヴェシーのちょっとした機転によって、「友人たちの大切なメダルを守る」という、すばらしい仕事を成し遂げたのです。
学問とは、そうしたものです。
今、学んでいること。
今、研究していること。
そのほとんどは、何の役にも立たないことでしょう。
ですが、「何の役にも立たない」はずの知識が、あるとき、不意に組み合わさって、ひとつの重大な仕事を果たす。
それは十年後か、百年後か。あるいは千年後かもしれません。
しかしそうした「一見役に立たないこと」の積み重ねこそが、現代の高度な技術へと繋がってきたのです。
みなさんも、日々、勉強をしていて不安に思うことがあるかもしれません。
「こんなことが、何の役に立つんだ?」と。
私は声を大にして言いたいと思います。
大丈夫だ!!
きっといつか役に立つ!!
勉強、がんばりましょう。
大高校 杉本